この記事の目的
楽器を弾く上で、セットアップはとても大事です。
練習してもうまくいかない原因は、演奏技術ではなく楽器のセットアップの問題かもしれません。
この記事は、セットアップに迷う方が「何から」「どの順番で」「どの数値を目安に」調整すればよいかを整理し、より楽器を楽しめる状態に近づけるためのまとめ記事です。
注釈:記事内で登場する人物について
- ジョン・サー氏:ハイエンドギター「Suhr」のCEOです。
- トモ藤田氏:ボストンにあるバークリー音楽大学で教鞭を取られている有名な方です。
- カール・ヴァーヘイエン氏:米国のギタリスト。Supertrampのギタリストとして知られ、Carl Verheyen Bandを率いるほか、ロサンゼルスのセッションギタリストとしても活動しています。
まずここだけ押さえればOK:セットアップ用語・道具・パーツ名
この記事は「数値」を扱うため、最初に用語の意味を揃えておくと迷いません。
わからない言葉が出てきたら、まずこの章に戻ってください。
① シックネスゲージ(Feeler Gauge)とは?
シックネスゲージは、薄い金属板が何枚も束になった工具で、1枚ずつに厚みが刻印されています。
ギターのセットアップでは主に、ネックのリリーフ(反り)の隙間を「mm(またはinch)で正確に測る」ために使います。
定規では測りにくい小さな隙間を、再現性高く確認できるのが強みです。
シックネスゲージがない場合(代替の考え方)
- 紙やカード等で「挟める/挟めない」の感覚は確認できますが、厚みは製品差があります。
- 最終的に数値の再現性を上げたい場合は、シックネスゲージの使用が確実です。
② よく出てくる「測定の前提」
リリーフ(反り)
ネックがわずかに弓なりになっている状態(またはその隙間)を指します。
リリーフは弦振動の「逃げ」を作る余白で、少なすぎるとビビりが出やすく、多すぎると押さえにくくなりやすいです。
弦高(アクション)
弾きやすさに直結する「弦とフレットの距離」です。
この記事では12フレットを基準に数値を示しています(測る位置がズレると同じmmでも感触が変わります)。
ピックアップ高さ
ピックアップは磁石なので、近すぎると弦振動に干渉して音程が揺れたり、遠すぎると出力が下がったりします。
数値を測るときは、最終フレットを押さえた状態で距離を確認します。
③ 「スプリングクロウ」が一般的な名称(ストラトの背面)
ストラトキャスター背面のスプリングが引っかかっている金具は、一般的にスプリングクロウ(Spring Claw)と呼ばれます。
2本のネジで締め込み量を調整し、スプリングの張力を変えることで、ブリッジの浮き具合(フローティング)や戻りの安定性に影響します。
④ 最低限そろえると迷いが減る道具(一覧)
- チューナー
- 定規(mmが読めるもの)
- シックネスゲージ(リリーフの隙間確認用)
- 六角レンチ(トラスロッド/サドル調整)
- プラスドライバー(ストラトのスプリングクロウ等)
最初に結論:セットアップは「順序」で迷わなくなる
セットアップは、ひとつ触ると別の項目に影響します。
だからこそ、順序を固定しておくと「手戻り」が減り、調整の精度が上がります。
共通:ジョン・サー推奨のセットアップ順序
すべての調整は、この順番で行います。
- チューニング(必ず演奏する姿勢で)
- ネックのリリーフ(反り)調整
- 弦高(アクション)調整
- ナットの高さ調整
- イントネーション(オクターブ調整)
- ピックアップの高さ調整
なぜこの順番なのか(迷わないための考え方)
- チューニング:基準音がズレると、測定も判断もズレます。
- リリーフ → 弦高:ネックの反りは弦高に直結します。反りが変われば弦高も変わります。
- 弦高 → ナット:ナットはロー・ポジションの弾き心地に直結。弦高が決まっていると判断がブレにくいです。
- 弦高 → イントネーション:弦高(押弦量)が変わると音程のズレ方も変わります。
- 最後にPU高さ:演奏性と音程を整えた後に、音量・キャラクターを調整すると迷いません。
機種別ガイド①:ストラトキャスター|フローティングと演奏性の両立
ストラトの設定では、ブリッジの浮かせ具合(フローティング)がサウンドとチューニング安定性の鍵となります。
ポイントは「弦の張力」と「スプリングの張力」の釣り合いを作ることです。
カール・ヴァーヘイエン流:トレモロ設定の秘訣
- ブリッジのフローティング:ブリッジを浮かせることで、アームアップとダウンの両方を可能にします。
- スプリングクロウの角度:低音弦側を締め、高音弦側を緩めるように斜めに設置します。これにより、張力の強い低音弦側と弱い高音弦側のバランスを取り、チューニングを安定させます。
アームアップ時の音程目安(到達音)
- 3弦(G):短3度(B♭音)
- 2弦(B):全音(C#音)
- 1弦(E):半音(F音)
詳細数値(Fender / Suhr基準)
-
ネックリリーフ:約0.15mm (0.006″)。
サー氏は、0.005″(1弦の太さの半分)を理想としつつ、環境変化を考慮して0.007″〜0.008″を推奨しています。
考え方:リリーフは「弦振動の逃げ」を作る余白。少なすぎると当たりやすく、多すぎると押弦量が増えやすくなります。 -
弦高(12フレット):6弦側1.5mm (60/1000″) / 1弦側1.3mm (50/1000″)。
考え方:弦高は「弾きやすさ」と「安定(ビビり・音詰まりの出にくさ)」のバランスです。 -
ナットの高さ:3フレット押下時に1フレットと弦の間にごくわずかな隙間がある状態。
考え方:ナットはロー・ポジションの弾きやすさに直結。高いと押弦が重く、低いと開放弦でビビりが出やすくなります。 -
ピックアップ高さ:最終フレット押下時、低音側2.4mm (3/32″) / 高音側1.6mm (1/16″)。
※トモ藤田氏は、磁力干渉を防ぎ鳴りを良くするため、フロントとミドルを5mm〜5.5mmまで下げる設定を好みます。
考え方:PU高さは「出力」と「弦振動への干渉」のバランス。近すぎると磁力の影響が出やすく、遠すぎると出力が下がります。
機種別ガイド②:テレキャスター|3ウェイ・サドルの「違いの分割」
テレキャスター(特に3ウェイ・サドル)は、2本の弦で1つのサドルを共有するため、調整に独自の工夫が必要です。
セットアップのポイント
-
3ウェイ・サドルのイントネーション:2本の弦のうち、一方がわずかにシャープ、もう一方がわずかにフラットになるよう調整し、全体の「違いを分割(スプリット)」してバランスを取ります。
考え方:「どちらも完璧」を狙うのではなく、全体として違和感が最小になる落とし所を作る、という発想です。 -
詳細数値:ネックリリーフと弦高の基準はストラトと同様です(リリーフ0.15mm / 弦高1.5mm-1.3mm)。
考え方:まず土台(リリーフ/弦高)を揃え、最後に3サドル特有の折り合いを作ると迷いにくくなります。
機種別ガイド③:レスポール|サスティンとテンションのコントロール
レスポールは、固定ブリッジ(Tune-O-Matic)とテールピースの関係が重要です。
弦の折れ角やテンション感が、弾き心地と鳴りの両方に影響します。
詳細数値(Gibson公式基準)
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ネックリリーフ:1フレットと16フレットを押さえ、7フレットでの隙間が0.17mm〜0.20mm(名刺1枚分)。
考え方:リリーフは弦振動の逃げ。固定ブリッジでも、ここが決まらないと弾き心地は安定しません。 -
弦高(12フレット):6弦側2.0mm〜2.3mm / 1弦側1.2mm〜1.5mm。
考え方:コード中心か、チョーキング中心かで好みが変わります。まずは基準で土台を作り、そこから自分用に詰めます。 -
テールピースの高さ:ボディにベタ付けするよりも、わずかに上げることで弦のテンションが弱まり、チョーキングがしやすく、かつサスティンも向上する場合があります。
考え方:テンション感(押弦/チョーキングの重さ)と鳴りのバランスを取りやすくする調整です。 -
ピックアップ高さ:最終フレット押下時、ブリッジ側1.6mm (1/16″) / ネック側2.4mm (3/32″)。
考え方:出力と分離感、そして弦振動への影響のバランスを取ります。
機種別ガイド④:ES-335|箱鳴りを活かすジャンル別設定
セミアコは、ピックアップの高さによって「箱鳴り」の拾い方が大きく変わります。
PU高さは音量だけでなく、キャラクターにも関わる調整です。
ジャンル別ピックアップ設定(最終フレット押下時)
| ジャンル | フロント(ネック) | リア(ブリッジ) | セットアップの狙い |
|---|---|---|---|
| ロック | 1.6mm | 1.6mm | フロントのソロとリアのバッキングのバランス |
| ジャズ | 3.0mm〜5.0mm | 3.0mm〜5.0mm | ピックアップを下げ、ボディ全体の箱鳴りを活かす |
| ファンク/ソウル | 3.0mm | 1.6mm | センターでのキレとフロントのメロウなサウンド |
| ブルース | 1.6mm | 3.0mm | フロントの太いソロとリアの控えめなサウンド |
セットアップを成功させるための共通のコツ
-
ナットを低く、ブリッジを高く:サー氏の秘訣は、ナットを極限まで低くカットすることです。
これにより低い弦高を維持しつつ、ブリッジ側で高さを稼ぐことで「鳴り」を向上させることができます。
注意:ナットは削り過ぎると戻せません。不安がある場合は無理に深追いせず、他の要素(リリーフ/弦高/PU)から整えるほうが安全です。 -
イントネーションの確認:12フレットのハーモニクスと実音を比較する方法が一般的ですが、サー氏はナットの影響を排除するため「フレット上のG音とそのオクターブ上」で比較する方法を推奨しています。
考え方:原因(ナット由来か、サドル由来か)を切り分けやすくするための比較方法です。 -
季節の変わり目に注意:気温や湿度の変化でネックが動くと、すべての調整が狂います。
特に冬場は指板の乾燥を防ぐための保湿(レモンオイル等)が不可欠です。
考え方:数値が合っているのに弾き心地が崩れたとき、まず「環境変化」を疑えるようになります。
基準値は「正解」ではなく「スタート地点」です
この記事で紹介している数値や設定は、あくまで基準値です。
まず基準に揃えることで、今の楽器が「どこで」「なぜ」違和感を出しているのかが見えやすくなります。
そこから先、弾き方・ジャンル・音の好み・弦の種類に合わせてカスタマイズするのは自由です。
基準を知っていると、カスタマイズも「勘」ではなく「意図」を持って行えます。
迷わないためのチェック手順(この順に戻ればOK)
- 演奏姿勢でチューニング
- リリーフ(基準へ)
- 弦高(12F基準へ)
- ナット(3F押下時の基準へ)
- イントネーション(比較方法の基準へ)
- PU高さ(各機種の基準へ)
まとめ:セットアップが整うと、練習が「前に進みやすくなる」
セットアップは、弾きやすさ・安定性・音程感・サウンドの土台を作ります。
土台が整うと練習の手応えが掴みやすくなり、結果として楽器がもっと楽しくなります。
迷ったら、この記事の順序に戻ってください。
順序と基準値があるだけで、調整は格段に整理しやすくなります。
体験・相談のご案内(K Sound Design)
「基準に合わせても、まだしっくりこない」
「どこを優先すべきか整理したい」
そう感じたら、現在の状態を一度チェックして、調整ポイントを整理していくのが近道です。
K Sound Designでは、マンツーマンでギター/ウクレレのレッスンを行いながら、楽器の状態や練習の進め方も含めて整えていきます。
対応エリア:春日・大野城を中心に、大橋/博多・中洲/桜坂でもレッスンを行っています。
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